<Vol.74 MJビジネス寄稿>ヤンゴン市民の自動車購買意向と今後の展望
1.ミャンマー人の購買意欲は強く、ヤンゴンを中心に新車市場は順調な拡大を見込む
2019年5月末にトヨタ自動車はミャンマーで初となる自動車生産会社Toyota Myanmar Co., Ltd.(TMY)をティラワに設立し、2021年から生産を開始する決定を踏まえて、ミャンマーの市場としての注目度が再び集まる。
ミャンマーのミドル層以上から自動車の購買意欲は高い。弊社で行ったヤンゴン在住のミャンマー人への調査結果をみてみたい(図1)。注目すべきは、ほとんどすべての世帯層の約7~8割が今後10年以内には自動車を購入する意向がある。なお世帯収入が2,000USD以上の富裕層の約5割はすでに自動車を保有おり、買い替えニーズがある結果となっている。
なぜ自家用車の購買意欲が高いのだろうか。最大都市のヤンゴンでは、①鉄道網などの公共交通の未整備(➭ストレスフルなバスと高額なタクシーしか交通手段がない) ②二輪車の走行がヤンゴン中心地では禁止(➭低所得者の主要交通手段であるはずのバイク通勤ができない)③雨季時期におけるバスやタクシーの脆弱性(➭雨による迂回などでバスは遅延。➭タクシーは毎回直接交渉のため、降雨時は需要増加による価格の急上)などが挙げられる。
2. バス以外の公共交通開通は最短で2027年。自家用車保有意欲は継続見込み
自家用車を保有しなくとも、日本のように通勤に便利な公共交通が整備されればよいという声もある。ではヤンゴンでは将来的にいつから都市鉄道などの公共交通が整備されるのだろうか。MRT建設は今年の5月からODAの活用を視野に事業調査が始まった。ただし開通予定は2027年とされ今から8年も先である。ヤンゴン環状線の改修も計画されており、環状線の利用者も若干増えるのだろうが、ヤンゴンへの人口流入も続いておりYBSのバス利用への一極集中は今後も続くだろう。同時にヤンゴンの渋滞悪化は避けられず、バンコクやジャカルタ並の渋滞水準まで悪化してもおかしくない。2019年初旬に進んでいた二輪車規制緩和も、議会において話が立ち消えてしまった。代替交通手段のなさから、自動車の保有意欲はさらに高まるだろう。
3. ミャンマーはタイプラスワンを活かせる好ポジションにある
自動車産業が集積する隣国のタイでは自動車の一大サプライチェーンが築かれている。ただ賃金高騰と労働者不足によるコストアップが避けられない状況だ。確かに未だミャンマーの新車市場2万台という数字は、タイの1/50の市場でしかない。今回工場新設を決めたトヨタ自動車にとってはミャンマーの20~30年先を見据えた長期的な投資であると拝察できる。タイに拠点を置く労働集約性の強い日系メーカー企業にとっては、ミャンマーへの製造拠点の拡大・移管の可能性を改めて検討する時期に来ているのではないだろうか
(おわり)
瀧波栄一郎(Director)