<Vol.77 MJビジネス寄稿>2020年ミャンマー総選挙の展望

<Vol.77 MJビジネス寄稿>2020年ミャンマー総選挙の展望

~NLD、国軍系以外で重要となる第三勢力の存在~
10.23.2019
コラム
Director 瀧波 栄一郎

1.国軍排除は短期的には困難。総選挙以降もNLDと国軍の共存は継続される

来年はミャンマー総選挙の年である。民主主義政権を安定化させたいNLDとしては引き続き過半数超の議席を狙うが、近年雲行きが怪しい。要因としては、①軍事勢力を排除する大胆な変革が実現できていないこと(憲法改正等)②経済面での投資目標の下回り ③通貨安などを背景としたインフレの加速 ④少数民族に配慮した政策実現ができていなこと(少数民族との和平制定の遅れ等)が挙げられる。①についてスーチー氏は、内情混乱を避けるために、国軍と共存する方向でこれまで政権を担ってきた。またロヒンギャ問題などで生じている欧米社会からの非難には、自身のレピュテーションを犠牲にしつつも、国民(特にビルマ族)や軍部を敵に回さない現実路線を貫いてきた。来年度選挙以降も、軍部が持つ聖域(25%の軍人議員枠、国防/内務/国境大臣の任命権など)に切り込むことは非常に困難と言わざるを得ない。

 

2. 88世代による人民党は票の受け皿となるか?

スーチー氏としては引き続き軍部との共存路線維持ではあろうが、USDPなど軍系が国民の支持を得ることはないだろう。では仮に選挙でNLDが単独で過半数取得できなかった場合、どの党と連立政権を組むのだろうか。近年は元国軍ナンバー3で、スーチー氏との距離も近いシュエマン氏が、自身で政党を立ち上げ大統領就任の意欲も見せている。また来年に向けてシャン州などの地方部を中心に、民族系の政党が連合を組み始めるだろう。弊社内に設置するシンクタンク部門でも度々議論するが、最も有望視しているのは、新政党People’s Party(人民党)である。人民党は1988年の民主化運動で元学生リーダーのコーコージー氏が党首を務め、スーチー氏との関係も良好だ。前回選挙では、NLD圧勝シナリオを築くために、自身は控えNLDに潜勢力を譲った位置づけである。今回選挙では、人民党が第三勢力となりNLDと連立を組むことが、安定的な民主政権2期目の運営につながると考えている。

 

3. ポストスーチー氏は誕生するか?

スーチー氏は今年で74歳。“ポスト”スーチー氏となる人物は未だ挙げられない。他アセアンの経済成長の歴史をみると必ずといって強力なリーダーシップがあった。マレーシアのマハティール、インドネシアのスカルノ、シンガポールのリークアンユーなどがすぐに思い浮かぶ。開発独裁色の強いリーダーシップが必ずしも良いとはいえないが、多民族国家で、資源も豊富、かつ少数民族が軍閥のように存在感を持つミャンマー経済水準を向上させるためには、強権的にでも実行力のある政治家・実力者が適している可能性も否めないのではないだろうか。そのようなリーダーは果たしてNLD、はたまた元学生運動家、民間出身者、軍部、少数民族などどこから呱々の声をあげるだろうか。弊社でも国外機関と共同で定期的に世論調査(Opinion Poll)を行っている。来年に向けて最新の政治情勢を追っていき、日系企業の皆様への情報提供に努めたい。

MSRシンクタンクメンバーと討議の様子(MSR本社)

(おわり)

Dr. San Tun Aung / 瀧波栄一郎