<Vol.80 MJビジネス寄稿>ミャンマーにおけるモバイルマネー市場の概況
~ミャンマーはキャッシュレス社会となるか~
1. 民間モバイルマネー事業者がミャンマーの金融包摂浸透を牽引
安価なスマホの登場と旧来の送金手段のデジタル化により、モバイルマネー事業者による先行投資が行われてきた結果、ミャンマー中のレストランや小売店で、「KBZ Pay」や「WaveMoney」の看板を目にするようになってきた。
モバイルマネーの中でも、通信大手Telenorとヨマ銀行が展開するWaveMoneyが最大手である。WaveMoneyは、農村も含めて全国330のタウンシップの90%にあたる約300カ所に支店(エージェント)を設け、最大の700万人超のユーザーを抱える。
国連データが3年に一度更新する金融包摂率(銀行・モバイルマネー口座の保有率)を見ると、ミャンマーは26%(2017年)と周辺国で比較すると低水準である。ただ2014年時点からは5pt上昇しており、今年2020年中に再度統計データが公開されるため、どの程度増加しているか注目したい。
2. 既存の大手事業者がどこまでキャッシュレス社会実現に向けて本気になるか。
モバイルマネーの更なる普及により、キャッシュレス社会となるのだろうか。普及に重要な要素は二つある。一つは、既存のサービス基盤を持つ強力な事業者が先導的に普及を促すことだ。中国ではアリババとテンセントが主導したからこそ(銀聯のクレジットカードを抜き去り)爆発的に普及した。
ミャンマーでは、投資余力と顧客基盤を持つ企業がどこまで本気で普及させるか、にかかっている。ミャンマーでは前述のヨマ・Telenor連合同様に、OoredooはCB銀行と提携しM-Pitesanというモバイルマネーを展開。2019年に入り通信最大手のMPTもMPT Payの事業ライセンスを取得。大手銀行と通信事業者はどこもモバイルマネーとキャッシュレス社会に乗り遅れないようにさらに投資を本格化するだろう。
3.ミャンマー政府が民間主導の変革をサポートする政策をうてるか。
二つ目は政府による政策的なサポートが必要である。インドでは、2016年に政府が高額紙幣を廃止したことを受けて、国民による電子マネーへのシフトが誘発された。当時高額紙幣(500/1000ルピー)は国内流通の9割弱を占めており、ミャンマーでいう1万と5千チャット紙幣を同時に廃止するようなものだった。非常に大胆な政策であったが、現在ではインドの消費者の取引全体の2-3割がキャッシュレスという調査結果もある。
ミャンマー政府もデジタル経済ロードマップを策定しキャッシュレス化を推進する方針だ。ミャンマーは日本のようにクレジットカードやATM網など普及が進んでおらず、モバイルマネーに対抗する既存勢力が強大でない。だからこそ急速にキャッシュレス社会が訪れるポテンシャルも秘めているのではないか。
(おわり)
瀧波栄一郎(Director)