<Vol.78 MJビジネス寄稿>ミャンマー携帯キャリア市場の概況
~通信キャリア事業の今後の商機とプラットフォームビジネスの可能性~
1.モバイルが急速に浸透し、データ通信料は世界的にも最低水準
ミャンマーにおける携帯電話市場の立ち上がりは目覚ましく、普及率は2018年時点で113%を超える(日本は139%)。安価な中国製スマホの普及も相まって、誰しもがスマホを保有しインターネットにアクセスする。ミャンマーでは、平常時はデータ通信ボタンを切り、少しでも通信料を節約する習慣がまだ根強く残るとはいえ、データ料金自体はここ数年で下落し、主要国と比しても最低水準の0.87米ドル/1GBにある(図1)。今後も携帯キャリア事業者間の競争によって価格下落の圧力は高まるだろう。
2. MYTEL参入により価格競争がさらに加速
一般的に、大手といえるキャリアが3社以下で、政府規定も不十分な場合、通信費用が高止まりしてしまう。日本においても大手3社キャリアによる「協調的寡占」とも揶揄されてきた。イギリス、ドイツ、フランスなどでは、以前は高かった通信費用が、第4のMNO勢力の参入やMVNO政策により、通信料金が低廉化した調査結果が野村総研の調べでも明らかにされている。
ミャンマーでは、2018年代半ばからベトナム系との合弁がMytelブランドで第4の事業者として参入し、既に国民へのモバイル普及率が高くトップラインを伸ばせない中、これまで以上の価格競争が強いられている。基地局を整備し、販促を行うだけで、売上・利益が伸びてきた立ち上げ時期とは様相が異なってきている。実際にMytel参入以降で、各種プロモーションなどによる価格競争が一層激しくなり、OoredooやTelenorなどのミャンマー事業における営業利益率は下がっている。
3. 携帯キャリアが捉えるべき商機とは
では新規ユーザーが頭打ちとなるミャンマー市場に於いて、事業者はどこに商機を見出すべきなのだろうか。やや概念的でもあるが、GAFAのプラットフォーマーが目指すあらゆるデータを起点としたマーケティングビジネスの基盤作りをミャンマーで実現することだ。キャリアが保有する消費者のデータは膨大である。加えて、既に各社は非現金決済を自社サービスとして展開する。これらのデータもあわせると、消費者の行動がこれまでにない水準で把握ができるようになる。これらのデータは、GAFA、または、同様サービス事業者のマーケティングにかけがえのないデータであり費用をかけてでも取得したいはずだ。キャリアとしては、こういった企業と共同で事業を進めることもできれば、データそのものを販売することも可能だ。日本でも楽天が第4の事業者としてのキャリアへの参入を行っている。莫大な投資が伴う中、楽天の関心は、消費者とのタッチポイントを増やすことで得られるデータを起点に、日本最大のプラットフォーマーを志向する。ミャンマーでは各事業者がそれぞれ囲ってしまい手放さないデータのオープン化・共有化を、日系企業がサードパーティーとして主導できる可能性もなくはないだろう。
(おわり)
瀧波栄一郎(Director)