<Vol.79 MJビジネス寄稿>ミャンマーにおける食用油市場の概況
~危機に陥る国産食用油と今後の投資可能性~
1.国産の供給不足により海外産食用油に席捲されるミャンマー市場
ミャンマーの国産食用油産業が危機に陥っている。国内のサプライヤーや加工業者が不足していることに加え、人件費や燃料費の高騰なども影響し国産の価格が高くなっている。また、需要の拡大分は海外の輸入品が市場をおさえており、現在では市場の約7割が安価な輸入品で占められている。マレーシアやインドネシア産のパームなどの植物油が約2,000チャット/1viss(約1.6L)のところ、ミャンマー産のピーナッツやゴマ油は7,000チャット/1vissで約3倍以上高くなっている。国内の業界団体や専門家は、軍政権が1990年代に海外産輸入に門戸を開き、国内産業を育成してこなかった点を指摘する。Frontier Myanmarによれば国内で生産をする事業者は、1990年初頭には3000あったが、輸入品との競争ができなくなり、今では1/10の水準の300社程度である。
2. 近年は韓国・シンガポール系企業が食用油の生産工場の投資を進行
こういった背景をチャンスと捉え、韓国財閥CJグループの食品会社は2016年にティラワ工業団地内に食用油製造工場を建設。最近でも2019年にシンガポールのウィルマ―グループが同じくティラワで、食用油の新工場の稼働を開始させた。日系の大手食用油メーカーでミャンマーに進出する企業は未だないが、約11%超で成長する食用油市場のポテンシャルは高い。
ミャンマーの食文化の基礎は油である、と言っても過言ではないほど油を多用している。ゴマ油やピーナッツ油の原料は、北部のザカイン管区やマグウェ管区で多く栽培されており、パームについてもタニンダーリ地域が栽培に適している。日系企業にとっては、このような地域を念頭に、製造業投資で活用できる投資優遇インセンティブや業界団体側のサポートも享受しながら、投資余地は十分にあると考えられる。
3. インド・バングラデッシュなど南アジア市場への供給拠点となり得るか
日系メーカーにとってのミャンマー投資のメリットは国内需要もそうだが、ミャンマー市場と南アジアへの市場拡大を当初から見据えた投資も検討できることである。ミャンマーの食文化はインドや南アジアの影響を受けており油の利用頻度も似ている。豊沃な土地があるミャンマーからインド、バングラデッシュなどへは陸続きでの輸出可能性が期待できる。中でも2020年代には最大の人口規模となるインドの政府は、“Act East”外交・貿易戦略に基づき、東南アジアとの貿易拡大を目指し、その玄関口となるミャンマーとの貿易増加には両国とも前向きな姿勢だ。弊社は原材料生産に適した地域で投資を促進したい地方政府や企業と共同で投資フェアやアドバイザリー業務を行っており、日系企業向けに販路開拓調査やパートナーシップのポテンシャル支援の促進ができればと考えている。
(おわり)
瀧波栄一郎(Director)