2019年ミャンマー自動車業界レポート①

2019年ミャンマー自動車業界レポート①

~立ち上がる自動車産業と今後の展望~
02.21.2019
レポート

1. 立ち上がる自動車産業

ミャンマーではテインセイン政権下での経済開放以降も中古車が9割以上を席巻し、新車市場は数千台しかなく、タイやインドネシアなどと比較すると小規模であったことから、自動車市場への注目度は低かった。然しここ数年で状況は一変している。ミャンマー政府が2017年に中古車輸入を実質的に規制したことをきっかけに、新車販売が直近の2018年は前年度から倍以上伸び、1.7万台を突破した。前年度成長率でみれば、ASEANで新車市場が最も急速に立ち上がっている…(本文に続く)

 

2.  自動車ローンの普及と中間層の購買力

では、どのような顧客層が購買の担い手になっているのだろうか。2011年の経済開放以前、自動車の購買層はクローニーと呼ばれた企業経営者、政府高官、少数民族の武装勢力など限られた富裕層が中心となり数百万円以以上していた輸入車などを購買していた。現在、購入の担い手はアッパーミドルに属する中間層であり、彼らにとっては、金融機関やメーカーが長期の自動車ローンを提供し始めたことが新車購買促進の一助となっている。例えば業界最大手のスズキは、地場大手銀行のAYA銀行と提携し最大7年のローンを提供。同ローンは日本円で約5万円(70万kyats)の世帯月間収入があれば利用できるため…(本文に続く)

 

3.  ミャンマー市場でシェアトップのスズキ、背景には長年の“仕込み”期間

トヨタとホンダなどが筆頭シェアを握るタイ、ベトナムなどのASEAN諸国とは異なり、ミャンマーはインド新車市場に近く、スズキが一強として新車市場シェアトップを握っている(図4参照)。スズキの成功は一朝一夕では語れず、対インド同様に他社に先駆けて進出し、長年の粘り強い努力の結晶ともいえる。経済制裁下にあった1998年に当時のミャンマー工業省などと共同で事業を開始し、1999年から10年間の取り決めでピックアップトラックやワゴン車、二輪車の生産を行った。ただし同時期は米国の経済制裁の強化により悪化する経済に加え自然災害なども影響し、民衆の度重なるデモが発生していた…(本文に続く)

 

4.  完成車メーカーの生産拠点の新設と拡張の動き

ミャンマー政府は自国の5千万人超の市場性を理解しており、輸入車に規制をかけることで大手メーカーに現地生産を促し、自国での雇用創出やタイやインドネシアが経験したような技術移転を促したい考えである。ASEAN経済共同体(AEC)が進めてきた自動車も対象となる域内の関税撤廃に関しても、ミャンマー政府は、輸入車に対しては車庫証明の取得を義務付けるなど、国内での規制を用いて実質的に規制をかけることで、メーカーの現地生産拠点の新設を促進している。スズキの独断シェアを許さない完成車メーカーは今後、組立工場の新設や整備を進めるだろう。直近では2019年2月に韓国の現代自動車が新たに10億円程度を投資した生産工場がヤンゴン北部の工業エリアで稼働を…(本文に続く)

 

5.  自動車産業が本格的に立ち上がる時期とは

完成車メーカーの進出だけをみても、自動車産業が成すピラミッド構造のほんの一部であり、部品・部材を供給するサプライヤー企業の進出があって、初めて自動車産業の本格的な立ち上がりといえる。現在のミャンマーで生産拠点を構えるメーカーはスズキ、Ford、KIA、日産、現代の5社で、どの企業もCKDかSKD方式であり、現地で部品を調達して生産はそもそもサプライヤーがいないため出来ていない。…(本文に続く)

 

6.  今後の展望

10年進んでいるベトナムに比し、ミャンマーでは完成車メーカーの組立が本格化した段階であり、自動車“産業”が整備されるにはまだ時間を要する。AECによる関税撤廃によりタイを中心としたサプライチェーンでほぼ完成したかに見えたメコンの自動車産業であるが、貿易赤字を垂れ流す状況を良しとしてしないミャンマー政府は、非関税障壁を設けることで、政策面から現地生産を促す流れはしばらく続くだろう。また安全面からみても、右車線に対して、右ハンドルの中古車が普及する状況は政府も問題視している。今後は購買力のあるヤンゴン市民を中心に、長年親しんだ右ハンドルの中古車を離れ、”Assembled in Myanmar”の新車への切り替えが進むだろう。

<※更新 2019年6月23日>

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2019年ミャンマー自動車業界レポート②