<ArayZ 11月号寄稿>変革期の自動車産業~ミャンマーにおけるCASE~

<ArayZ 11月号寄稿>変革期の自動車産業~ミャンマーにおけるCASE~

11.13.2020
コラム

1.配車サービスは Grabの一強体制

ミャンマーでは、安価なスマートフォンの普及や通信費用の低減によりデジタル化が急速に進んできた。過去5年でも情報通信技術を取り入れた新興企業が100社以上も誕生し、外資PEファンドやベンチャーキャピタルの海外資金も相まって、スマートフォンが一つあれば、先進国や隣国タイ、シンガポールなどと変わらないサービスが受けられるようになっている。

MaaSに関連する配車アプリ、ライドシェアの領域ではシンガポール資本のGrabの存在が最も大きい。最大都市ヤンゴンでも、過半数のタクシー運転手がGrabを活用している。

Grabは2017年にミャンマーに進出し、翌年には配車アプリのパイオニア的存在であるアメリカのUberのASEAN事業を買収することで自社のシェアをミャンマーでも確立した。

現在では配車アプリを起点に食品デリバリー、ポイント事業、ホテル予約、運転手付きレンタカーなども提供する。独自で投資を進めている決済プラットフォームやウォレット機能は、非現金決済を進めたいミャンマー政府の意向と消費者ニーズとも一致しており追い風となっている。

 

2.ベトナム系なども参入して競争激化

Grab以外にもOway Ride、 Hello Cabsなどの地場系や、18年にはベトナム資本のFastGoなどがミャンマーに進出した。中でもOwayはスタンフォード大学を卒業後、アメリカのGoogleで勤務経験のあるミャンマー人創業者が14年に設立し、日本の大和証券グループも18年に出資をしている。

タクシー運転手にとってはGrabへの手数料はOwayの2倍であり負担が大きいが、

 ①ラッシュアワー以外の時間帯での顧客獲得が容易

 ②外国人観光客が他国で利用し既にアプリを保有している

 ③ビジネス客にとっては領収書が発行される

 ④カード決済では即日支払い可能

 ⑤運転手向け保険サービスの充実


など、運転手と利用者の双方から支持されていることがGrab1強体制の背景にはある。

ただ、ミャンマーにおけるMaaSのサービス拡大と普及には、そもそもの基盤となる鉄道、道路などのインフラ整備が不可欠である。 最大都市であるヤンゴンの公共交通をとっても、本来は主要通勤手段となるべきヤンゴン環状線は老朽化により速度が遅く、多くの通勤者はバスや自家用車しか通勤手段がない。MRT(大量高速交通システム)の計画もあるが、現時点ではルートの初期調査段階である。

一方で、大規模な交通運営事業者は国営ミャンマー鉄道以外には存在しないミャンマーだからこそ、MaaSが目指している交通・移動手段をすべて繋ぐ社会の実現を迅速に進めることができる可能性も秘めている。

 

※本内容は、タイの日本語月刊誌「ArayZ」11月号に掲載されております。リンクはこちらです。

(おわり)

瀧波栄一郎(Director)